Home » Artist Interviews » 染谷悠子 アーティストトーク 2010
Artist Interviews
染谷悠子 インタビュー 2010年
installation view at Tomio Koyama Gallery Kyoto, 2010
► このインタビューは、オープニング(5月8日)当日、ギャラリーで行われたアーティスト・トークの模様を編集したものです。
——— 染谷さんは千葉県出身で、東京造形大学を卒業後、東京芸術大学の大学院を修了されています。その時勉強されたことと、今の作品との関連について、また制作のプロセスや素材についてお聞きしたいと思います。
染谷 私は東京造形大学に油絵科で入学しましたが、2年生の時にコース分けがあって、そこで版表現というコースを選択しました。それからはずっと版画育ちというか、ペインティングとか大きなタブローとかではなく、どちらかというと身近な、手に取れるようなものを中心に制作してきました。
そこで和紙を使って版画を刷っていたのですが、ある時期に自分側に版画の技術を引き寄せる、ということにシフトチェンジをしました。そこから立体作品とか、エンボスという技法を使って、色々なことをやっていました。その中で、修了制作に取り掛かる頃、自分では手ごたえを感じて作ったものが、さっぱり作品になっていない事に気づいてしまい焦りました。
その時、私は絵が描けないんだ。とハッとして、もう一度絵を学び直そうと思い、今に至ります。
——— パネルにまずキャンバスを張っているんですよね?
染谷 はい。まずパネルにキャンバスを張って、その上に和紙を貼っていって、油絵でいうと地を作る作業をします。色の部分に使っているのは、保存修復用の和紙です。とても薄い和紙で、2枚重ねのティッシュの1枚分くらいの薄さですが、和紙なので薄くても強いです。
色を着けているのはリトグラフのインクで、プレス機で和紙に色を刷っています。リトグラフは平版なので、薄い和紙でもインクがしっかり乗ってくれるんです。すごく薄い素材なので、はかないんですけど、強くもあるというところを気に入っています。和紙と鉛筆など、強いけれど、良い弱さを出してくれる素材を使っています。
——— それは、デリケートだけれども強いという質感や感覚を出したいから、色々なマテリアルを試してみたということでしょうか?
染谷 本格的な版画制作は、東京造形大学2年の時が、はじめてだったのもあり、かなり色々試しました。まずは一つの版を作ってどの紙に刷るかというところから。造形は山の上にあったので、下山せず学内の画材屋で手に入れられるだけの洋紙から和紙から、全種類1枚ずつ買って、どれが一番自分の絵に合うか試しました。
その時、和紙が自分に一番しっくりきた素材でした。また和紙にも色々種類があるので、和紙の専門店でこの保存修復の和紙に出会いました。だから素材選びも大切な制作過程です。
——— 地の部分の和紙と、色を着けてある保存修復用の和紙は、違う和紙ということですね?
染谷 そうです。これは、学生時代の仲間に恵まれまして、地に使ってある和紙のほうは、1学年下の友人が小川町という和紙の里で和紙を作っていて、友人に「こういう和紙を作ってください」とお願いして、何種類か作ってもらっています。
——— この作品はベースが格子状になっていますが、種類が違う和紙なんですか? *1
染谷 手漉きなので多少の差はありますが同じ種類です。向こうの作品は、一番下に同じ地の色を置いて、和紙の薄さとか素材によって、少しずつ差を出してます。 *2
——— 上の青っぽい部分と、下のグレーっぽい部分が違うということですか?
染谷 そうですね。和紙の素材自体が違います。下の地は同じなんですけど。
——— こちらは和紙を重ねて貼ってという質感が面白いです。 *3
染谷 この作品も基本的に今までの作品と同じですが、一部、立体的に貼ってあります。この部分などは制作中、貼る前に位置を確かめるように置いている時の状態を見て、素直に「きれいだな」と思ったので。 *4
水で線を引いて切っていき、耳というか和紙の繊維を引き出してから貼っています、カッターで切った冴えた線とはまた違うので使い分けています。
——— この黒い部分は、墨で色を着けていらっしゃるとお聞きしましたが。
染谷 はい。ただこれも、墨で直接画面に線を引いているというよりは、別のところで引いたものを、同様に水で線を引いて繊維を出すやり方で描いています。
——— ピースになっているものは、切った時に鉛筆でドローイングをされるんですか?
染谷 全部画面の中でです。
——— 制作にすごく時間がかかると思います。
染谷 この2点は同じ大きさで同じ構図です。 *2 *3 向こうのほうは *2 時間が非常にかかってしまいましたが、こちらの作品は *3 向こうほど時間がかかりませんでした。描く時に始めの設定がおおかたのみ込めていて、その途中で私が迷わなければ早いです。途中で迷ったり、違うことを考え始めたりすると、かなり遠回りをしてしまいます。
——— だいたい染谷さんの作品には物語があるということですので、それについてお聞きしたいと思います。この作品は《薔薇の花の枯れる時をおそれる》というタイトルです。
染谷 この作品には、真ん中の辺りに花達にまぎれて白い生き物がいます *5 。
花の姿に憧れをもち、憧れ過ぎて花を羨み、嫌う。それでもその場から動かずにそこにいるので、獣臭さが花の匂いで消されながらも、自分の場所だと支配する。想いは矛盾でぐらぐらしながら絵の外に目線を向けています。昔からよく人は、人間の美徳や欠点を動植物や自然などの性格、性質にのせて、またその逆をして表現する場面があります。それを「物語」という型にはめこみ、流れをつくり壊しながら描いています。
また私は絵に生き物がよく登場するのですが、例えば、動物園の動物が自分が動物園にいることをきっと知っているように、彼ら絵の中の動物も、自分が絵の中にいることを知っているという前提で描いています。
その対として、この白い作品を描きました。タイトルは「薔薇の花の枯れた時をおそれる」で時間が変わり、花は骨をモチーフにしています。私たちは「花が死んだ」とは言わず「枯れた」とか「しおれた」と言いますが、この生き物は、花も自分と同じように死ぬと考えているので、骨になっていくんだと思っています。なのでこの絵は白い生き物の思考側の場面です。
——— この大きな4枚組の作品には大きなバクが出て来て、タイトルが《白色の獣、そして悲しい》となっています。
染谷 設定としては、白々と夜が明ける場面です。白黒のバクがモチーフで白の部分を夜明け頃、黒の部分を真夜中頃とイメージしていて、ここでは、バクが白で夜を飲みこみ持って帰る流れの中、蝶達はその夜の余韻やカケラとしています。
——— だから蝶が黒っぽいのですね。 *6
染谷 そうです。
——— 今、お話くださったような物語というのは、先にそれらがあって、それをイメージにするのか、先にイメージがあって、物語がなんとなく浮かんで来るのでしょうか?
染谷 いまの制作では、「物語」がそれぞれの絵の型となるので、基本的には、始めに設定を組んで、絵の構図や貼り方や位置も全部、何枚にも渡って設計図的なものをしっかり描き上げてから、画面に向かいます。だからそういった意味では版画のプロセスとも、近いですし基盤のひとつです。
——— そのプロセスの中で、ストーリーが浮かんで来るという感じですか?
染谷 描きながら変更や付け足しはもちろんありますが、基本的にはだいたい始めに決まっています。始めと終わりが決まっているんですね。真ん中は描きながら詰めていく感じです。
——— もう1点、通路のところにも展示しているのが《水の柵》というタイトルの作品です。 *7 *8
染谷 波紋をモチーフにした作品です。向こう側に蜘蛛がいて、蝶々が飛んでいる場面なんですけど、この蜘蛛が水の波紋を、ー遠くから見ると分かるかもしれないんですがー、花に似せた形に作って、蝶を食べてやろうというものです。
——— 《水の柵》というタイトルの「柵」には、「策略」の「策」も意味合いとして入っているということをお聞きしました。
染谷 ただ待っているだけではなく、花に蝶が寄って来るのを、絵の中の蜘蛛がしっかり知っているというところです。
——— 色を紙にのせる場合に、それを刷るという作業は、色を集めることと一緒だと思うのですが、作品が出来る前から、色を決めているのですか?
染谷 こういう絵を描こうとぼんやりしたものが出来てから、自分で絵の具を作る感覚で刷りにいきます。グラデーションの場面は使う色をしっかり想定して刷っていて、あとはやりながら欲しい表情をつくっています。
——— 刷るということは、版があるのですか? 描いたものの版もありますか?
染谷 そうですね、描いたものの版もあるのですが、描いていないものもあります。
——— 泡みたいな部分は、描いているのですか?
染谷 ほとんどの泡や滲んだようなものは、刷って出したものです。
——— 紙に色面を作る感じですか? 形は一応、あるんですか?
染谷 形はあったりなかったりです。紙に色面を作るというよりか、例えば油絵を描く時に欲しい絵の具を買って来る事と同じです。それが、私の場合大きめの和紙に色を刷り、それを色別にストックしておいて、絵の時にそれを引っ張ってきて使います。
——— 染色のような感じですか?
染谷 紙の感じは、それに近いかもしれません。とにかく絵の具を自分で作るという感覚でやっています。
あと、この和紙は薄いので、重ね合わせて混色もその場でできますし。その点でも良い素材を見つけたなと思います。
——— この手法は染谷さんのオリジナルなのですね? 部分的には修復の時に使う手法なのかもしれませんが。それを画面全体にやっているのですね。
染谷 基盤は元々ある古い手法をなどを、取り入れています。
——— ストックは、どのくらいあるのですか? 大きさはどのくらいですか?
染谷 増えたり減ったりですが、けっこうなかたまりであります。ワンサイズはだいたい、90 x 60cmくらいで、それぞれ和紙サイズぎりぎりの大きさまで刷っています。
——— 染谷さんは先程、ストーリーについて色々語られていましたが、そのイメージの源泉はありますか? 本を開いたり、漫画や映画を見ていたりとか、音楽とか、それとも散歩している時とか。
染谷 本ももちろんありますし、花言葉などがそうですが、動物に何かしらの意味が付けられていることを取り入れたりもしています。
——— 基本的に何かをキーワードとして、そこから拡張して、それがイメージの源泉というか、形を作っているということなのでしょうか?
染谷 それはありますね。一つの言葉から広げていって、それに必要な動物や植物を付加していきます。
染谷悠子 interview May, 2010
- Interview by Tomio Koyama Gallery
- インタビュー 参照画像
- installation view at Tomio Koyama Gallery Kyoto, 2010
©Yuko Someya
- *1 白色の獣、そして悲しい White animal, and sad, 2010
pencil, lithograph ink, chinese ink,Japanese paper on canvas mounted on wood panel
135.0 x 360.0 cm / 135.0 x 90.0 cm(each)
©Yuko Someya
- *2 薔薇の花の枯れる時をおそれる I am afraid time comes when roses to wither, 2010
pencil, lithograph ink, Japanese paper on canvas mounted on wood panel
150.0 x 120.5 cm
©Yuko Someya
- *3 薔薇の花の枯れた時をおそれる I am afraid time came when roses to wither, 2010
pencil, lithograph ink, chinese ink,Japanese paper on canvas mounted on wood panel
150.0 x 120.5 cm
©Yuko Someya
- *4 薔薇の花の枯れた時をおそれる I am afraid time came when roses to wither (detail), 2010
©Yuko Someya
- *5 薔薇の花の枯れる時をおそれる I am afraid time comes when roses to wither (detail), 2010
©Yuko Someya
- *6 白色の獣、そして悲しい White animal, and sad (detail), 2010
©Yuko Someya
- *7 installation view at Tomio Koyama Gallery Kyoto, 2010
水の柵 Water scheme, 2010
©Yuko Someya
- *8 水の柵 Water scheme, 2010
pencil, lithograph ink,Japanese paper on canvas mounted on wood panel
80.0 x 90.0 cm
©Yuko Someya
- installation view at Tomio Koyama Gallery Kyoto, 2010
染谷悠子 :Archives
- Exhibitions
- Interview








