Artist Interviews

ヴァルダ・カイウ゛ァーノ インタビュー  2009年

ヴァルダ・カイヴァーノ インタビュー 2009 installation view from [ The Inner Me ] at Tomio Koyama Gallery Kyoto, 2009

——— まず、基本的なことを聞かせて下さい。手法について。

カイヴァーノ そうですね、それぞれの作品によるのですが、主に2種類のやり方でキャンバスの準備をします。オイルベースの下地と水ベースの下地があります。それぞれ表面をガラスのようにするか、石のようにし、それによってペインティングが違うようにみえます。つまり表面が絵の具を吸収するかしないかの違いです。

——— ではこのペインティングはどちらですか?*1

カイヴァーノ オイルです。だから絵の具がしたたり落ちているのです。

——— 油彩を使うんですよね。

カイヴァーノ はい。時たま水彩も使いますがほとんどは油彩です。パステルオイルも使う事があります。これは顔料とメディウムでできているものです。*2

——— それからワニス(つや出し)を使っているのを見ました。

カイヴァーノ はい、時々使います。例えばある部分が明るく、ある部分はぼんやりとした感じの時、そのコントラストを保つためです。また私の作品に関する手法的なことで、特徴があるとすれば次のようなことです。基本的にペインティング、あるいはあらゆるファインアーツ、また音楽もそうですが、アーティストが作品を制作するときに使う手法というもの自体、彼らのやっていることにとても近いのです。
例えば、ミュージシャンのビョーク。彼女が歌う内容、歌い方、出自、服装、ボディランゲージ、声の出し方……これらは全て一体のものです。私の場合、私が描くペインティングには私自身似てはいませんが、何を描くかというのはどのように絵の具を置くか、色の作り方などと同じことです。また多くの場合私がやるのは作品をサンドペーパーで磨くことです。それによって作品は平にみえますが、X線をかけてみたら何層にも絵の具が重なっていて、多くの時間を費やしたことがわかります。*3

——— ひとつの作品を完成するのに長い時間をかけるんですね。また、同時にたくさんの作品を進行させているとか。特定の作品にいつ戻るのですか?

カイヴァーノ 何をすべきかわかったときです。その点は文章を書く時と似ているような気がします。すでにもっている情報や考えを、まるでパズルのように組み合わせていきますね。私のペインティングの場合は、色、ドローイング、別の作品のことなど、これらの要素を組み合わせていって、作品自体と生成してゆきます。まるでそれらがアイデンティティをもち始めるように。でも思うようにいくまでには長い時間がかかります。いつも戻って、面白いどうかかやどう続けていくべきか考えなければなりません。

——— あなたの制作のプロセスでもうひとつ面白いのは、作品同士の関係ですね。この関係が制作を進める上でどのような影響をもつのですか?

カイヴァーノ それは私の制作全体に関わることなので、自然に起こります。手法に関すること、あるいはその時読んでいる本、描いているドローイング、これまでに学んだこと、おなかに入っているもの、その時の感情など……違う要素を持ち寄って、いろいろと試してみるのです。キッチン、あるいは実験室にいるみたいに。話すこと自体は可能ですが、複雑なことでもあるので「こんなふうです」と言い切るのは難しいですね。

——— ペインティングを始める前にドローイングをすると伺いました。ペインティングが実験室にいるみたいだとすると、ドローイングは何でしょうか?

カイヴァーノ ドローイングというのは見るという行為自体ですね。ただ単に「見る」だけでなく、ドローイングによってイメージをとらえるのです。制作のことについてたくさんお聞きになりますが、私にとってはもちろん経験も関係するけれども、同時に子供が遊んでいるような側面もあります。最も重要なことは、私の作品はトレードマークやオブジェクトを表現するのではなく、「声」を作り上げてゆくようなものであるということです。

——— キャンバスのどの部分から描き始めるのですか?

カイヴァーノ 良い質問ですね(笑)。作品によって違いますので特に決めていません。時には途中でキャンバスの向きを変えたりもします。また時にはキャンバスを直接床に置いて描いたりします。

——— だから今回キャンバスを貼る作業をギャラリーの方でしたんですね。

カイヴァーノ そうです。展覧会にはいつも展示する数の2倍の作品を持って行きます。アトリエで「これで良い」と思った作品でも、展示スペースでみてみると「まだ加筆が必要」と思うこともありますので。

——— それでは今回の小山登美夫ギャラリー京都での展示プロセスについてお話しください。まず壁の色を考えることから始めましたね。

カイヴァーノ 展示スペースの壁を塗るということは、前からやってみたかったことでした。作家として、作品をつくる側ではありますが、同時にそれらとの関係を築きます。時には作品が話しかけてくることがあります。つまり私は作品と対話しているのです。時にはうまくいかず苦しむときもありますし、楽しくて音楽を感じるような気分になることもあります。作品に深く関わりをもつんですね。なので私の場合はかなり主観的です。だから長い時間が必要となるのです。
一度作品がアトリエを離れてギャラリーに着くと、また違うようにみえることがあります。今度は少し遠い存在となります。私の作品は抽象ですので、何が描かれているのかはっきりしませんし、どの部分からみるかも決まっていません。つまり鑑賞者にかなりの自由が与えられます。能動的にみるか、あるいは無視するかのどちらかです。また私の作品はオープンで、未完であり、また加筆することがあります。どこで一時的にでも制作をやめるか。それは何か面白いことが起こってきている瞬間です。完成し決着がつくわけではありません。それは起こっている途中の状態です。だから展示スペースはまるで演劇のステージのように、作品の個々の声を尊重するために重要となるのです。展示の仕方が変われば、作品の見え方も全く変わります。

——— 展示スペースだけではなく、街、環境も影響しますか?

カイヴァーノ もちろんです。とても重要です。昨日タクシーに乗って京都の細い通りをみていると、骨董を売る店を見つけました。また建築や濃い色の木の家。とても美しかった。このような環境において、人々は私の作品をみるわけです。彼らにとってはどうか分かりませんが、私にとってはとても素晴らしいことです。

——— 「音楽」の作品についてもう一度聞かせてください。ひとつの壁に5点も展示しました。最初は驚きましたが、この展示の仕方は「音楽」に関連するのですね。 *4

カイヴァーノ クラシック音楽においては、様々なムーブメントがあります。特にシンフォニー、たとえばモーツアルトなんかです。あるひとつの旋律を聴いていると、次の旋律が来るのがわかります。そして次の旋律を聴いている間も、その前のものが共鳴して心の中に残ります。それは照明や気温が違う部屋に次々に入って行くような感覚かもしれません。違う作品を並べるとこのことは起こりません。この5点は色、ライン、スペースの使いかたなどで互いに関連しあっています。
スペースは重要な要素ですね。キャンバスというのは二次元のものですが、新しいスペースというものをつくらなければなりません。時には主観性、心、感情に関連します。日本の作家たち、例えば北斎なんかはとても興味深いスペースの使いかたをします。多くのヨーロッパの作家が日本の浮世絵に影響を受けていますね。ゴッホもそうです。他にも抽象で面白い仕事をしている作家がたくさんいます。長い伝統があり、私が急にやり始めたというのでは全くありません

——— 今回セットになっている作品が2組ありますね。*5 *6

カイヴァーノ 通常は作品は一点ずつ展示します。あまりそのことが好きではありませんでしたが、長い間やっていました。今は自分がやりたいと思うことを通すようにしようという思いがあります。これらの作品はセットだと面白いことを言っているような気がします。同じ時期に制作していましたから。長い付き合いなのです(笑)。

——— 何か付け加えたいことはありますか?

カイヴァーノ そうですね。思うに、私の作品は橋のようなものです。現実からそうでないもの、未完のものへの。新しいスペースを開くようなものです。

——— 私たちはプレスリリースにあなたの次の言葉を引用しました。ペインティングとは、「イメージを問う一つの方法」であり、そこでは「視覚的なオブジェクトが隠された深部をともない、ある種の反理性的な真実を明るみにする」。

カイヴァーノ それは引用です。フランスの象徴主義といわれるグループがいました、オディロン・レドン(Odilon Redon)などです。彼らは具象をやっていましたが、このようなことについて述べていました。あとはマックス・エルンスト(Max Ernst)などですね。これらのアーティストが私にとって重要なのは、手法がイメージと結びついているという点です。スペースという点についてはゴッホや日本の浮世絵の作家が重要です。またこれはまだどうアプローチしていいか自分でも分からないのですが、私が女性のアーティストであることは重要なことです。

——— アルゼンチン出身ということはどうですか?

カイヴァーノ あまり「アルゼンチンのアーティスト」という感覚はありません。私の家族はヨーロッパ人で、母はユダヤ人です。ペインティングを始めたのはイギリスに行ってからですし。

——— アルゼンチンでは美術史を学んだんですね。

カイヴァーノ 実はまず生物学を勉強しました。アーティストになりたいと言うと、「両親が4ヶ月毎日描いてみなさい」と言いました。とても楽しかった。両親はまた「アーティストになるんだったら、美術史をまず勉強しなさい」とも言いました。6年間美術史を勉強して、美術館やキュレーターと仕事をしました。ロンドンに来てからペインティングを始めました。ですので自分はロンドンに属している、という気がしています。

ヴァルダ・カイウ゛ァーノ interview September, 2009

  • Interview by Tomio Koyama Gallery
Exhibition Data
ヴァルダ・カイウ゛ァーノ 展 The Inner Me
2009.09.11 - 10.17
小山登美夫ギャラリー京都
  • インタビュー 参照画像

 ヴァルダ・カイウ゛ァーノ :Archives