Artist Interviews

名知聡子 インタビュー  2010年

名知聡子 アーティストトーク 2010 installation view from [ Confession ] at Tomio Koyama Gallery, 2010

► このインタビューは、オープニング(1月16日)当日、ギャラリーで行われた[アーティスト・トーク]の模様を編集したものです。

——— 今回の個展が小山登美夫ギャラリーでの初めての展覧会となります。『告白』という展覧会タイトルですが、具体的なイメージがあるのでしょうか。

名知 「伝えたい人に、伝えたい。」そんな気持ちがあって、まさに告白!という感じですね。ギャラリー2に展示してある作品 *1 は、私の友人を描いているのですが、女性の強さや、社会で生きていく上で他人には見せることのない素顔を描きたくて、真実を告げるとか、内面を告げるといった意味が「告白」にはあります。

——— 名知さんの作品は、個人的な思いが制作の動機になっていますよね。例えば、とても好きな人がいて、その人に対する思いのかたまりが、具体化したものが作品なのだとお話を伺ったことがあります。今回の個展の作品も、そんな個人的な思いから描かれているのですね。

名知 そうですね。自分の気持ちを知ってほしいと強く思います。

——— これまでは、名知さん自身が作品に登場することが多かったと思うのですが、今回の展覧会では、名知さんの友人をモデルにしたペインティングが何点かありますね。作品のモデルを名知さん自身と友人という括りで分類できると思います。伝えたい内容の違いによって、モデルを描き分けているのでしょうか。

名知 どの作品も「強い意志」を描いているつもりです。自分を描くときは、その時の自分の内面の大部分を占めている思いを表現します。友達を描くときは、例えば、その子とお茶をしながら話をして「はあ、こんなこと考えてるんだ。この子は強いなあ」といった強い思い、譲らない思いを描きたいと思っています。

——— 具体的に個々の作品についてお聞きします。横幅が8メートルもある『子守唄』*2 ですが、こういった大作に取り組むときは、事前に小さなサイズのドローイングを描いてから、実際に制作を始めるのでしょうか。

名知 頭の中にパッと浮かんだイメージをドローイングしますね。これだったら「落ちて行く私、闇の中に」というのが頭にあって、それを小さい紙にいっぱいドローイングする。描いていくうちに、仏具を入れたり、背景を詰めていったり、下絵を作ってから大きくします。

——— 何枚もドローイングを積み重ねて行くといった感じですか。

名知 結構、描きますね。A4くらいの紙にやることが多いです。(完成した作品と比べると)すごい小さい。

——— A4サイズの下絵から8メートルのペインティングの画面に拡大するわけですが、具体的にはどういった手順で拡大しているのですか。

名知 まず下絵をパソコンに取り込みます。その画像をプロジェクターからパネルに拡大投射するんです。そして拡大された下絵をトレースしていきます。『子守唄』は2メートル x 2メートルのパネルを8枚連結して1枚の画面にしているので、各パネルのつなぎ目は端から何センチ、と確認しながらやっています。

——— 名古屋にある名知さんのアトリエは、それほど大きくはないですよね。『子守唄』もここに搬入してから、8枚のパネルを床に一度並べて、つなぎ目の状態を見ながらディティールを描きこんでいったんですね。2週間くらいここで作業して、途中から壁にかけて、ローリングタワーという移動式の足場を組んで仕上げをしました。アトリエでは、パネルをつなげたり、並べたりはできるのですか。

名知 一応、アトリエの壁の横幅は8メートル近くあるので、パネルを横に4枚はつなげられるんです。ただ、部屋の高さが2.5メートルしかなく、縦に2枚をつなげると4メートルになってしまうので、上下には並べられないんです。縦を描きたいときは仕方がないので、とりあえず横向きに縦の2枚をつなげて、自分も横に傾いて描いているんですよ(笑)。

——— それは大変です……では、この縦の上下のパネルを本来あるべき状態で見たのは、ここの壁にかけたときが初めてなのですね。

名知 そうなんです! かかっている作品を見たときに「ええっ」って感動してしまったんですよ。ミラクルが起きた!こんなふうになるんだって(笑)。

——— 8枚のパネルをすべて組み合わせてみたのが、展示作業の時がはじめてで、その後に全体を見ながら、印象を調整していったのですね。
仏具をモチーフにしているのには、何か理由があるのですか。

名知 この作品は、私が落ちて、死んでいくのがテーマです。安らかに死んでいくような。タイトルは『子守唄』ですけれど、安らかに、眠るように死んでいく。安らかさを出したくて、『miniature garden』*3 のバラやレースといったかわいらしい装飾じゃない、静かなものを表現するために仏具を取り入れたんです。

——— 『沈黙の瞳』*4 や『盲目の少女』*5 といったポートレート的作品と、『子守唄』や『miniature garden』のような背景の中に人物がいる作品の違いは何なのでしょう。

名知 ポートレート的な作品は、削ぎ落として、削ぎ落として、一つのものをバッと出したいんです。一つの線で見せる、レーザー光線みたいなものというか。背景があるような作品は、レーザーというより、ド派手な感じでバーンと全面に出したい感じというか…。

——— ピンポイントで照射するものと、大きくドバっと出すものといった感じですか。

名知 そうです!

——— 名知さんの作品はとても大きいですよね。今回展示されている一番小さなペインティング『S』*6 でも194センチ x 194センチあります。通常、そのサイズのペインティングは大作の部類に入ります。他にも、2008年に東京オペラシティ「project N 32」で展示された『幸福と絶望』*7 に至ってはサイズが240センチ x 1114センチ、つまり横幅が11メートルもあります。大きさへのこだわりがあるのでしょうか。

名知 作品のイメージにあった大きさを選んでいます。ポートレートふうの作品も、どれも同じようなサイズに見えるかもしれませんが、モデルになっている子のためのサイズを選んでいるんです。

——— 以前に名知さんと大きさについて話をしたときは、「他のものを目に入れたくない。自分だけで世界を包み込んで、これしかない世界を生み出そうとすると、どうしてもサイズが大きくなってしまう」と話されていました。

名知 エレベーターを上がってきたら、この『子守唄』を見てほしくて、「これだけ、これだけ見て!」という気持ちで、壁に1枚の作品をかけたんです。

——— エレーベーターが開いて、まず目に飛び込んでくるのが『子守唄』で、そして、スペースの方に足を踏み入れた時に、実際の大きさを体感できるように展示してありますよね。そして『子守唄』の左の壁には『S』、右の壁には写真作品が2点飾られています。ギャラリー2は3枚のボートレートが鑑賞者を取り囲むよう展示されていますね。展示構成のコンセプトがあればお聞かせください。

名知 ギャラリー2の中心に立つと、それぞれの絵に描かれた、強い意思を持った3人の女性が鑑賞者を見つめてきます。強い女性に見られながら、自分の行いを考えたりする、懺悔の部屋みたいなイメージですね。

——— それは名知さんが懺悔するのでしょうか。

名知 ええと…悪いことをした人とか。悪いことをした男の人とかかな(笑)もちろん自分も含まれますけど
ギャラリー1は奥の壁面の、私自身を描いた『子守唄』が真っ先に飛び込んできます。左の壁に展示されている『S』のモデルの女の子は、私がすごく憧れていた人なんです。その反面、ちょっとした嫉妬とかもあって、どうしてもあの人と私を同じ部屋に展示したかった。同じフィールドに立ちたい!みたいな(笑)私は絵画と写真を一緒に展示するのがすごく好きなので、写真の作品も展示しました。

——— オペラシティでも絵画と写真を展示していましたね。どうして写真作品を制作するようになったのですか。

名知 写真は、ドローイング的な軽い気持ちで作っているんです。写真ってパッと撮って、現像したらすぐできるじゃないですか。でも、ペインティングは面相筆で細密的に描くような感じじゃないですか。

——— 個別に写真作品についてお尋ねします。左の赤い白鳥の写真『red swan』*8 は、名知さんの大切な人に…この話しても大丈夫ですか。

名知 あっ、大丈夫です(笑)赤い白鳥の鉛筆削りを、大切な人にプレゼントしたんです。実は私もこっそり同じ鉛筆削りを買っていて、それを見るたびに「まだ持っているのかな」って思ったりしていて。毎日、白鳥の鉛筆削りを見ていたら、この白鳥が生きていればいいのにと思いだして、その羽ばたいている姿を見たいと思って、写真作品にしたんです。「飛んでけ、あの人の元へ!」みたいな。

——— 写真では大きく感じられますが、その鉛筆削りを実際に見てみると、すごく小さいですよね。この写真の白鳥は、水面で羽ばたいているように見えますが、このような動きは実際にはありえないそうです。羽ばたく時の首の動きではない。そんな現実にはありえない姿を、名知さんが感じたイメージに合わせて加工していく。その意味では、写真作品は、ドローイング的と言えますね。
もう一枚の写真作品『bad ending』*9 にはどのような思いが込められているのですか。

名知 これは、すごい悲しい出来事があった時の写真です。この右側に映っているのが自宅なんですけれど、この家の中で悲しい出来事が起きたんです。初めてというくらい辛くて、もう思い出が周りにいっぱいありすぎて、生きてるだけで苦しい、世界が私に復讐する、と本気で思っていた。辛い、死にたいと感じて、思い出の建物から飛び降りようとする私を撮ったのがこの作品です。

——— 少し暗くて、わかりにくいですが、よく見ると右の建物の上に全裸になった名知さんが座っていますね *10 。夜明け前の、寒い時間帯に撮影されたそうです。

名知 それも…ありますね。全部絵にせずに、何か抜けるようなものがほしいのかも。

——— 名知さんのペインティングは、思いがすごく詰まっていて、要素も情報も多いし、サイズも巨大です。ペインティングだけでスペースが埋めてしまうと、少し圧迫感があって、苦しく感じてしまうかもしれませんね。写真によって、空気を抜くような役割があるのですね。
これだけ大きな作品だと、描くのが大変ですよね。画面をよく見ると、色が粒子のように細かく散りばめられています。どのような道具や画材を使っているのでしょうか。

名知 アクリル絵具をコンプレッサーで吹き付けます。仕上げもアクリルなのですが、その際には筆を使います。微調整には色鉛筆を使います。

——— 色鉛筆も使うのですか。

名知 色鉛筆は肌に使います。顔とか、手ですね。

——— 人物を描くときは、最後に目の光を入れるそうですね。

名知 『S』なんかはそうなんですが、最初の方に集中して目を描いていたら、どうも目の印象が強くなりすぎて、やられる!と思ったんです。気持ち的にも最後に目を仕上げて完成したかった。目はメインディッシュみたいなもので、描いていていちばん楽しいということもあって、目の光は独りきりでいろいろ考えながら、最後に描きます。

——— この『S』も『子守唄』と並行して、スペースで制作されていました。制作過程を見ているのですが、面白いことに名知さんは『S』の目の部分に紙を貼って、目をふさいでいたんです。なぜ、ふさいでいるのかというと、じっと見られているような視線が怖くて、耐えられなかったからというんですね。名知さんが描かれる目、その視線には特別な存在感があると思います。『子守唄』*11 もよく見ると、目から血の涙を流しています。そして、目の中には光がちょんちょんと描かれています。このイメージは当初から持たれていたのでしょうか。

名知 最初のドローイングの時からなんとなく血の涙を流させようと思っていました。夜中に、最後の一仕事として、魂を入れるみたいに目を描いていたら、感情が昂りすぎて、ぽろぽろと涙が出てきたんです。聴いていた音楽のせいもあると思うんですけどね。これはもう涙を描こう、神様が涙を描けと言っている、なんて思って描きました。

——— 血の涙によって、絵がとても強くなったと思いますね。制作途中と比較すると、血の涙を加える前までは、わりとディティールのほうが目立っていたんです。ただ、血の涙が流れて、目の中に光の点が入ってからは、グッと目や顔に意識が向かうようになりましたよね。

名知 目を描いているときが、一番幸せな時間なんですよ。

——— 目は、人がいると描けないんですよね。ギャラリースタッフも退出して、誰もいなくなって、はじめてそこを描くことができるという。

名知 そのときの様子は見せられない、恥ずかしくて(笑)。

——— (観客の方からの質問)
エアブラシ(コンプレッサー)はどのように使っているのですか。また、どれくらいの時間をかけて作業されていますか。

名知 作品にもよるけど、仏具などの装飾品にはほとんど使いませんでした。人物とか、服の影にコンプレッサーは使いますね。作業時間は……秘密です(笑)

——— (観客の方からの質問)
『子守唄』のドレスが大変魅力的に思います。何かを参考にして衣装を決めているのですか。

名知 以前、オペラシティで展示した写真で『end roll』というものがあります。私がドレスを着て、橋の上に座っている作品なんですけれど、『子守唄』は『end roll』の延長として描いているんです。あの橋からドボンと落ちる、そんなイメージです。でも、描いていくうちに、仏具とかを考えていたら、ドレスの柄をそのまま描くのは嫌になって。それで、仏具の布の模様をドレスの模様にしてみたんです。

——— 作品と作品がつながっているのですね。他の作品にもそういった関係やストーリーがあるのでしょうか。

名知 自画像にはすべて流れがありますね。私の人生を描いているようなものだから。全部つながっています。

——— (観客の方からの質問)
6階に展示されている『miniature garden』にはどんな思いがありますか。

名知 思い出の宝箱というイメージですね。時間が経って、愛しい記憶が、だんだん思い出になっていく。そんな時期に描いた作品です。

——— 『miniature garden』はバラに囲まれた名知さんを描いているわけですが、オペラシティで展示された『幸福と絶望』も花の中で寝ている名知さんが描かれています。両者は一つにつながっているのですか。

名知 私の中で『幸福と絶望』の延長にあるのが『miniature garden』です。物語は一つに続いているのですが、その中のワンシーン、ワンシーンを切り取っているので、時間が空いていたりもしますね。

——— (観客の方からの質問)
男性がモデルになることはあるのですか。

名知 今年のVOCA展(上野の森美術館)に出品する作品(『BOY』*12 )には、男の子を描きました。

——— 男の子を描こうと思った動機は何なのでしょうか。

名知 すごく好きな人ができても、何年か経つと、また別の人をすごく好きになってしまう。それはなぜだろうと考えた時に、きっと亡霊がいて、その子がいろんな男の人に乗り移って、自分の存在を忘れさせないために、私に恋をさせているんだという結論にたどり着いたんです。その亡霊を描きました。学生服を着ている少年が、真正面を向いてこちらを見ている作品です。はじめて男の子を描いた作品なので、3月のVOCA展でご覧いただけたらうれしいです。

名知聡子 interview January, 2010

  • Interview by Tomio Koyama Gallery
  • Photo / Kei Okano:installation view
Exhibition Data
名知聡子 展 告白
2010.01.16 - 02.13
小山登美夫ギャラリー東京 7F
  • インタビュー 参照画像

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