Artist Interviews

古西紀子 インタビュー  2010年

古西紀子アーティストトーク 2010 installation view at Tomio Koyama Gallery Kyoto, 2010

► このインタビューは、オープニング(3月19日)当日、ギャラリーで行われたアーティスト・トークの模様を編集したものです。

——— 今回の作品について、お話を聞かせて下さい。

古西 私の作品の特徴としては、風景の写真が多いことです。それと、デジタルでネガを何枚もスキャンして取り込み、それをコラージュして、一つのイメージにしていくという手法を使っています。
今までの作品は、時間をじっくりかけて、境目が全くないようにつくってあるイメージです。今回はそれとはちょっと違って、写真でありながらも質感がある――ペインターの方だとよくお分かりだと思うんですけど――、つまりアーティストの手仕事感というかテクスチャーというものを写真を使って表現したいと思いました。紙もその雰囲気の出るものを選んで、なるべく今までの作品とは違う手法で、シームレスということにこだわらず、手をかけすぎないような感じで作りました。
今までの私の写真はすごく大きいので、細かいディテールの描写の様子であるとか”シームレス”である様子などは実物をご覧いただかないと、前作品と比べてと言っても、どういうことなのかよくお分かりいただけないとは思いますが。

——— これは高さが2m 30cmくらいあります。このシリーズは本当に大きいですね *1 *2

古西 これは〈Landscape〉というシリーズです。あと〈Ice Park〉というシリーズもあって *3 *4、これもかなり大きいものです。この〈Ice Park〉では7つの全作品をつなげると一つの輪の、パノラマの風景になります。個々で独立したものとして展示することもあるますが、制作しているときも、個々別々につくり、後で、イメージをつなげていったん輪の状態にしたものをまた7つに分散させるという方法をとったものですが、全部で一つの輪のイメージになるように出来ています。

——— これは、撮影した場所がコロラド州のユーレイという場所だとか。

古西 ユーレイはアイスクライミングで有名な場所で、こういう氷の流れたような感じなんですけど、これは全部人工で、アイスクライミング用に、夜間にスプリンクラーで水をずっと流し続けて、寒い夜の間にそれがどんどん凍りついて形づいていったものです。アイスクライマーが世界中からいっぱい集まってきて、アイスクライミングをしていました。

——— 人物が写り込んでいますね。

古西 そうなんですよね。たくさん。それぞれの作品のなかで、すごく小さかったり大きかったり、色々なんですけど、(画面の中に)人がいます。人がいるということは、それを目安にしてその人たちがおかれている環境の、大きさをはかるということを無意識のうちにすると思うんですよね。
ただ私の手法としては、写真を撮るときに、カメラをちょっと倒して、自分に近いこういう距離から景色を撮るので、一枚のイメージの中には色々な大きさの人が含まれるんです。普通なら大きい人がここにいてだんだんイメージの上部にいけば小さくなるんですけど、それを全部入れ替えちゃうという。人だけじゃなくて景色もそうで、一番近くにあるものも、一番遠いものも、全く見境なく混ぜています。それをするのには、デジタルの力でしかできないので、今はそれを使って制作しています。

——— 写真の元々のテクスチャーを持ってくるのに、デジタルカメラではなくて大判カメラを使ってらっしゃるんですよね。

古西 そうですね。今は、大判カメラを使っています。でもそれはこだわって使い続けたいというわけではありません。デジタルカメラでも大判カメラのクオリティのあるものがあれば、ゆくゆくはそちらに移行していきたいと思っています。

——— フォトショップなどを使ってコンピューターで画像に手を加えるというのは、大学で勉強されたんですか?

古西 大学ではしていません。ただ、大学院に入ったときに、私が考えている作品作りをするには、普通の、暗室にこもって作るトラディショナルなタイプの写真ではどうしてもできないと気付きました。デジタルでしかできないので、大学院とは別の、小さな技術学校のような所に同時進行で通いながら技術を得て今に至っています。
私のできることなんて別にたいした技術ではないんですけど、写真もやっと、もっと自由にイメージを構成することができるようになったというのは、私にとってはとても重要なことです。

——— 撮ってそのまま、何も手を加えていないということが、いまだに写真の評価基準として根強く残っているという話を聞きました。

古西 そうですね。今のファインアートフォトグラファーというのは、皆ほとんどデジタルのプリントアウトだと思うのですが、それでもまだ、どれだけ画像に手を加えていないかというのが重要視されている気がします。
私の住んでいるロサンゼルスの写真家仲間との会話でもそういう話がよく出て来ます。私は反対に、デジタルで画像に手を加えることの善し悪しはあまり大した意義はないと思っています。私としては私の作りたかった作品はデジタルでしかできなかったというだけですね。

——— 一枚の中にたくさんの時間と場所があるんですね。

古西 そうですね。たくさんのネガを一つの作品に使うので。もちろん、だいたいは同じ場所で撮ったものを使うんですけれど。たまに、数ヶ月後に戻って撮ったものもあるし、数日違いで撮ったものもあるし、場所を変えて違う角度でから撮ったものもあるし、同じ被写体でも距離の随分違うものもあります。そういう時間差、距離差はあえて気にせず混在させて使っています。

——— もう一度今回のシリーズに話が戻りますが、今回は今までの作品とは、また違う方向に向かわれたということですか?

古西 そうですね。今までの作品は、実物を見ていただくと分かるんですが、境目が全く分からないようにつくられています。それは今までの作品の構想上すごく大切なことだったんですけど、今回はじゃあ、そうでないものも作りたいという気持ちがありまして、例えば粒子が荒いとか、もっとラフな感じで作ってみたいなと思った初めての作品です。
あと、ネガティブとポジティブが混在し、そのはっきりした違いがないというか、つまり両方ともが一つのイメージの中に存在していて、ネガティブポジティグの境界があいまいなものも目指して作りました。例えば、この竹のような植物の中にも、ネガとポジ、両方が合わさっています *5

——— 今回は、このフレームの仕方にもこだわられたとうかがいました。

古西 そうです。100%コットンの紙を使ったのも初めてだし、今回は、写真でよく使われるようなフレームの仕方ではなくて、ドローイングで使われるようなフレームを使っています。それをすることによって、質感を重視できるかなと思っているんですけど。

——— (作品を)初めて見たときに、確かに、ドローイングなのかペインティングなのか、テクスチャーがよく分からなくて、写真ではないように見えました *6

古西 そうですね。それが頭にあって、そういう質感を出したいと思ったので、紙選びからこだわって、こういう紙を選びました。それも初めてしたことです。

——— 今までの作品では平面的な広がりで、今まで当然と思われていた遠景・近景というものをを混ぜるということをされていましたが、今回ではその平面的な広がりと、あと重なりが中心になっているという違いがあると思います。

古西 今までの作品は、一つのイメージにネガを何枚も使っていましたが、そのネガのフレームいっぱい全部分使うわけではなくて、私の見方として、その要所要所を自分で抜粋してそれをもとに一つの風景画を自分で一から組み立てるという手法です。今回は「4 x 5」のフルフレームを使うようにしました。
でもそれも、フルフレームで全部使っているものもあるし、欠けているものもありますが。それで、多重露出、―よく失敗したときに起きますよね―、その偶然に出来た複数の時間の重なった様子を再現してみたくて、何枚もイメージが重なった感じを表現してみました。

——— では、毎回、シリーズ毎に、テクニックを色々と試行錯誤して、色々なものを取り入れていかれるのですね。紙の質とかフレームとかも色々変えていかれるのですか。

古西 そこまで色々考えたのは、今回が初めてです。今までは、紙の質感ということは考えずに、ごく一般的な印画紙を使っていましたし、フレームのこともあんまり気にしなかったんです。
今回の前の作品、〈Ice Park〉は、完成させるのにすごく時間がかかった作品なんですね。それで、その〈Ice Park〉が完成したときには、次回の作品ではいつも使っている手法ではないものを試したいという気持ち、何か違うものを試してみた方がいいんじゃないかという気持ちがありました。また今までの作品に納得してそこだけで留まりたくなかったので、今まで使ったことのない方法で作品作りをしたいなと思って、作りました。

——— 今後、こういうことをやってみたいというのはありますか?モチーフであるとか。

古西 そうですね、私の作品作りはだいたいいつも、「どこに行きたいか?」ということから始まるのですけれど…。漠然とした形にならない構想が何となく頭にあって、撮影場所を、まず、ここで撮りたい、こういうものを撮りたいというところから決めて、撮影しながらなんとなく作品の構想の骨組みができてきます。
デジタルとはいえ私の今取っている手段では、結局、従来のアナログの写真の方法よりも時間がかかると思うんですね。早いようで、個々のプロセスにすごく時間がかかりますし。でも、そのいろいろなプロセスをこなしていく間の、待ち時間というか待機時間の間に色々とアイデアが湧いて来たりします。
まずは、資料をたくさん集める目的で撮影に行き、持ち帰った手元の資料と時間を過ごすことで、漠然としていたアイデアを自分の頭で理解できるようになるまで、いろいろなイメージを実際に形にしながら試行錯誤を繰り返していきます。

——— それを遂行するために、テクニックを考えるということですか?

古西 そうですね。今まで自分が使ってきた手法以外でも、その漠然としたアイデアを形にする表現法法はあるんじゃないかといつも思考錯誤しています。
テクニックといっても、全然大したことではないんですけれど。今までの作品が全く境目のない、シームレスという感じのものだったので、その反対で、明らかに仕事感のあるラフな感じの作品を。息抜きという訳ではないですが、今までとは違ったエネルギーを使った作品を作りたいなという気持ちがあります。

interview March, 2010

  • Interview by Tomio Koyama Gallery
  • Courtesy of Murray Guy, New York :works
Exhibition Data
古西紀子 展 
2010.03.19 - 05.01
小山登美夫ギャラリー京都
  • インタビュー 参照画像