Artist Interviews

ベルンハルト・ブルングス インタビュー  2009年

ベルンハルト・ブルングス インタビュー 2009 installation view from [Die Schläfer] at Tomio Koyama Gallery, 2009 ©Bernhard Brungs

作品を発表することにおいて、インスタレーションは特別な意味があると思います。血の通った人と人の出会いのように、面と向かって作品に触れることのできる唯一の機会だからです。

——— まずは、展覧会のタイトルから説明していただけますか?*1

ブルングス 僕の大好きな、ゲオルク・ハイムの詩のタイトルに由来しています。
この詩は、フーゴー・バル(ダダの中心人物。ダダの活動拠点となった文学酒場『キャバレー・ヴォルテール』を開店したことで知られる)から、恋人で詩人のエミー・ヘニングスに送った手紙でも言及されています。その手紙の中で、バルは「ボードレールよりハイムは偉大な詩人である」と賛美しました。ハイムの詩『眠れるもの』はいかなるボードレールの詩よりも優れている、とも述べてもいます。作品の価値を云々するのは好きじゃないけれど、この詩は僕にとって特別なんです。特に、隠喩表現がすばらしい。

——— それは、『眠れるもの』という表現がでしょうか?

ブルングス そうです。「眠り」そのものは「景観の上を飛ぶ鳥」と描写されています。鳥は、死者がもたれかかる巨木の上を飛んでいる。詩の中では、彼らは息絶えているわけでなく、眠っているのです。亡骸を養分とする木の根っこで、休んでいる。
バルの見解に全て同意するわけではないけど、この詩はとても強い。さっき僕が話したバルがヘニングスに書いた手紙と、この詩が、フーゴー・バル、エミー・ヘニングス、ゲオルク・ハイムという、今回の個展における三人の主人公をつなげてくれる。だから、『眠れるもの』をタイトルに選びました。

——— なるほど。次に展示方法についてお聞かせください。インスタレーションにも興味があるのですか?*2

ブルングス ペインティングや彫刻といった個々の作品を集めて展示するだけにはしたくないですね。展覧会のシチュエーションを活かし、インスタレーションとして展示することは、僕にとって重要です。
インスタレーションは、ある種のムードや雰囲気を生み出します。それは、作品個々だけではない、全体観へと意味を変化せしめると思います。インスタレーションを好むのは、もしかすると美大生の頃に、立体作品をよく制作していたからもしれない。当時は、教授のもとでドローイングと同じくらい、彫刻に取り組んでいました。今のようなペインティングを、自分が進むべき道だと思ったのは、その少し後のことです。
作品を発表することにおいて、インスタレーションは特別な意味があると思います。血の通った人と人の出会いのように、面と向かって作品に触れることのできる唯一の機会だからです。本やカタログでは感じることのできない何かを、経験することができるでしょう。固有の空間で作品を発表することは、もう一つ意味があります。同じ空間に、たくさんの作品が並ぶことで、望もうが、望まざるが、作品同士に何かが起こります。そこに色彩、輪郭、形態のコミュニケーションが生まれます。描かれた人物同士のコミュニケーションがあり、これに加えて、建物自体とのコミュニケーションも始まります。これらの空間的要因を用いて、最高のインスタレーションを成立させたいですね。
だからこそ、一つ一つが輝いて見えるように展示する必要があります。僕のペインティングは、割と個人的なテーマを描いています。白い壁に飾るよりも、もっといい感じに展示できないかと考えたんです。そして、小さな努力で効果を上げる工夫を思いついたのです。それは、今回の展覧会で示したような壁に紙を貼るという、手近な方法でした。用意するのも簡単ですし、作品の雰囲気にもマッチすると思いました。その上、運ぶのも楽ときています。それに、A4サイズの紙を使うというのも素敵でした。A4の紙は安価で、みなさんにとっても、馴染みがありますよね。そして、とても気に入ったのが、紙は物を書くために存在していることです。この『眠れるもの』という個展は、物書きがテーマです。だから、「紙」がお互いを強く結びつけるだろうと思ったのです。紙は赤ワインで染めてあります。このワインが、青みがかった、黄色みがかったテクスチャーを引き出しているんです。どんな風に変化をするか、わくわくしました!*3

——— なぜ『ドイツ表現主義』をテーマとして選んだのでしょうか?この時代に共感をしているからでしょうか。 *4

ブルングス この時代の文学作品を読むのが好きで、詩にも共感します。彼ら作家が生きていた時代は、いろいろなことが起こり、世界が劇的に変化していった。その変革が、彼らを取り巻いた環境にどのような影響をもたらしたのかを知りたい。彼らを通じて、知りたいんです。

——— 用いている絵画技法について教えていただけますか?*5 *6 *7 *8

ブルングス チョークの下地をたくさんの層になるように重ねます。キャンバスの表面をかなり液化した絵具で覆います。色の濃い部分は最大で50層にもなるんです。
色の薄い部分はほとんど層を重ねません。白は一切、使わないですね。下地が、明るさの源になるのです。チョークによる下地はとても古い技法で、今日では用いられることはまれです。キャンバス上での絵具の扱い方が特に伝統的というわけではありませんが、自己の訓練によって技術的に発展はしています。

——— 大学時代にはどのような教育を受けていたのでしょうか?

ブルングス 本当の意味で、芸術を学ぶことができるのかはわかりません。美大は風車みたいなもので、その人自身をひっくり返してしまうかもしれません。そうは言っても、学生時代は僕にとって重要な時間でした。とりわけ、全ての影響にフィルターにかけざるを得なかったことに意味があります。フリッツ・シュベーグラー教授 –1972年のドクメンタ5で有名になった方ですが– のもとで主に学んでいました。先生を尊敬しています。すばらしい先生で、僕たちに何かを強要することは決してありませんでした。自分自身を信じ、独自の技術を習得するように手助けをしてくれました。
面白いことに、彼は油彩画をそれほど評価していません。そこには何か罠があると考えていたのでしょう。先生は、芸術はそれ固有の技術や表現の限界に挑戦すべきだと擁護します。何をするにしても、先行している画家の存在を無視することはできません。しかし、本当のところは彼らに比較されるいわれはないと思います。
僕は、現代は状況が違うと思います。60 – 70年代は、新しい芸術的表現が可能な限り検討されました。そして、今日においては、あらゆる形式的表現は苦境に立たされています。空想的で不可視なイメージを膨らませていくことは、ちょっとよくわかりません。
僕はもっと細部に焦点を合わせます。革新的なテクニックが無くても、どんな年代のアーティストもその世代ならではのテーマを表現するのが、自然なことだと強く思います。視野を広げて考えてみれば、今なら何でもありだと思うんです。絵画を敬意を持つことは、コンピューターによるアートに敬意を持つことと同じことではないでしょうか。シュベーグラー先生にとても感謝しているのは、制作の着想・表現に用いる手法・素材に対する鋭敏さ、それらが緊密に作品を組織することが、単なる作品を超越するという考え方に重きを置いていたことです。それが、重力から解き放たれた、説明すらできない何かへと形を変えるのです。

interview March, 2009

  • Interview by Tomio Koyama Gallery
  • Photo / Kei Okano:installation view
  • Ikuhiro Watanabe :works
  • 小山登美夫ギャラリー :translation
Exhibition Data
ベルンハルト・ブルングス 展 眠れるもの
2009.03.07 - 03.28
TKG Contemporary:小山登美夫ギャラリー東京 6F
  • インタビュー 参照画像