子供時代の記憶に戻って

清澄のスペースで展示されるのは今回が初めてですね。制作時からこの空間を想定されていましたか。

かなり大きなスペースだということは知っていましたが、自分の目で見た訳ではなかったので、特にこの展示に際して、ということは想定していませんでした。インスタレーションをしていく中で、空間と戯れることや、異なるタイプの作品がいかに調和していくか、といったことを楽しめました。

T今回の展示は主に(ミニカーの)スタッキング・シリーズと、<MAP>シリーズとで構成されています。これら2種類の作品についてお聞かせ願えますか。

スタッキング(積み重ね)のペインティングは、私自身のミニカー蒐集をドキュメントした現在進行中のシリーズです。ミニカーの積み重ね方も、大体は子供の頃に乗り物を組みあわせて遊んだ経験に結びついています。例えば‘Performance Transporter’では、積み重なるミニカーが虹の色のスペクトル上に配置されています--底辺の黄から始まり、オレンジ、赤、紫、青、緑、そして頂上に緑のトラックを乗せて終わる、というように。緑のトラックは、ぜんまい仕掛けのおもちゃのクジラを輸送中。ピンポン球を上に置くと、ぜんまいの巻かれたクジラのおもちゃが動き出して、ピンポン球を浮かせるんです。トラックは実際には軍事用タンクを輸送しているものですが、ここでは芸をするクジラとスーパーボールを輸送しているのです。

Performance Transporter, 2007-08Performance Transporter(detail), 2007-08Blue Jumpers, 2007-08

L to R: "Performance Transporter", 2007-08、"Performance Transporter"(detail), 2007-08、 "Blue Jumpers", 2007-08
oil and acrylic on canvas / 203.2 x 114.3 cm © Jeremy Dickinson

“Blue Jumpers”についてはいかがですか?

これは、ちょっと違った種類のスペクトルです。黄色から始まって、赤、橙、そして黄色と戻ります。上の方の青いグループはとても小さいマッチ箱の様な車で、穀物用の昇降機(grain elevator)を使って車の山から飛び出そうとしています。小さいミニカーは、まるで大きいミニカーのおもちゃみたいだといつも思います。だからこうやって時々違う大きさのものを織り交ぜて描き、ペインティングを生き生きとさせるんです。

アトリエでも、このように車を積み重ねてあるのでしょうか?

この高さまでは無理ですね、不可能ですから。でも、車と車の接合部分はすべて理にかなっていて、3個か4個まではスタジオでセットアップしています。そして下の1個をのぞいて、上に1個足すという過程を繰り返し、描いています。

モチーフの写真は撮るのですか?

いえ、全て本物から来ているのですよ。照明も設定して、実物を見て描いています。

絵の中の、ミニカーの大きさを教えていただけますか?実物大に見えるのですが。

大体、描かれている車は実物のおもちゃの1〜1.5倍の大きさです。

installation view at Tomio Koyama Gallery, 2008

installation view at Tomio Koyama Gallery, 2008

<MAP>シリーズについて教えていただけますか?

そうですね、これらの色のついたブロックは子供が使う積み木をもとにしています。これらの絵では、スタッキング・シリーズとはまた違った空間の中で、乗り物を支えています。'Double Omnibus Wall Map'は、実際にイギリスの北の地方の地図で、それぞれの町や都市はバスの色で定義されており、さらにその上にロンドン市内の地図(こちらは現代的な、赤い二階建てバス)を重ねてあります。絵の左側はイギリスの西海岸で、右側が東海岸になります。これらは理論的に考えれば、積み木と乗り物を使って構築できる三次元の地図とも言えます。

構図はどのように決めるのですか?

始めは、町をどこに配置するかを決めて、地図の構造を定めるところからです。それでバスがどこに行くのかがわかり、あとは積み木とどう遊ばせるのか、またバスを支える構造として積み木をどう組み立てるかという過程に入ります。

“Football League Wall Map of England and Wales”も同じ過程を経ているのですか?

はい。これはイギリス全土の地図です。曖昧ですが、イギリスの形が見てとれます。この絵の中のおもちゃのバスは、5センチくらいの小さいもの(先ほども出て来たマッチボックス・カー)です。この地図で描かれている町は、すべて小規模のリーグの、あまり成功しているとは言えないサッカーチームを持っているのです。

Double Omnibus Wall Map, 2008Double Omnibus Wall Map(detail), 2008Football League Wall Map of England and Wales, 2008

L to R: "Double Omnibus Wall Map", 2008 / oil and acrylic on canvas / 152.4 x 203.2 cm、"Double Omnibus Wall Map"(detail), 2008、 "Football League Wall Map of England and Wales", 2008 / oil and acrylic on canvas / 203.2 x 152.4 cm © Jeremy Dickinson

サッカーが好きなのですね。

そうですね、どの乗り物を選ぶか、という元になる情報の為に、サッカーの統計を使うことが好きです。だから絵はサッカーの絵というだけではなく、その町のバスの装いの絵なのです。サッカーの統計を使って、どの乗り物を入れていくかを決めます。

サッカーチームはバスで試合会場を巡るのですか?

いえ、バスの色はサッカーチームのユニフォームの色などとは関係ないんです。例えば、ロンドンはたくさんのロウワー・リーグのチームがいて、たくさんの異なった色を身につけています。しかし私は、それら複数のチームを描くために、赤い大きなバス―ロンドン市内を実際に走っているバス―を描きました。また、描かれている町で60年代や70年代に見ることができた、合併される前の地方自治体(livery)の人たちの装いの色合いも使いましたから、ノスタルジーの要素も含まれていますね。(訳注:原文の「livery」は、ロンドンのシティに本拠を置く同業組合のこと。現在も100を超える組合がある。14世紀の手工業のギルドを前身とし、1394年に最初の組合が認可された。組合のメンバーが同じ制服を着ることからこう呼ばれるようになった。)

いつ頃から<MAP>シリーズを始めたのしょうか?

最初は小さい積み木の静物画から始まりました。三世代にわたってもっている積み木のコレクションがアトリエにあるのです。私の父から私に伝わり、今は私の子供のものになっています。シリーズが展開していくにつれて、絵の中の積み木はより一般的な積み木になって、よりシンプルになっていきました。

それでは、そのときから<MAP>シリーズが成長し始めたのでしょうか?

はい。展覧会に出品している絵のなかでもう一つ、<MAP>シリーズの'Fishbowl Wall Map (Milwaukee to Boston)'という絵がありますが、これはアメリカの東海岸の地図です。ミルウォーキー、シカゴ、クリーヴランド、バッファロー、ワシントンD.C.、ニューヨーク、ボストン、そしてマンチェスター(ニューハンプシャー)と網羅しています。このバスは、今はもうほとんどみられない、アメリカの60年代、70年代の、クラシックカーのGM(ゼネラル・モーターズ社製)バスです。フロントガラスの形から、フィッシュボウルと呼ばれています。

“International Bus Park”は、ランドアートの野外彫刻作品を思い出させますが。

そうですね、リチャード・ロングの彫刻のことを考えていました。昔、作品設置のアシスタントをしていたので。この絵は、彼の石板の彫刻の法則をあてはめていると思います。おもちゃのバスは、想像上の円から、すべて外に向かっているように見えます。

Fishbowl Wall Map (Milwaukee to Boston), 2008International Bus Park, 2007

L to R: "Fishbowl Wall Map (Milwaukee to Boston)", 2008 / oil and acrylic on canvas / 71.12 x 91.44 cm
"International Bus Park", 2007 / oil and acrylic on canvas / 114.3 x 177.8 cm © Jeremy Dickinson

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