In These Days

展示の仕方についてなのですが、『undead family』展や『二人の浴室』展では、部屋の中のような、舞台装置めいた小道具がたくさん使われていたのですが、近年作品からなくなってきているような気がします。それはこの展示空間がホワイトキューブだからなのか、それとも徐々に小道具を使う必要性がなくなってきたからなのでしょうか。

最初のProject Roomは狭く、グループ展でもあったので、各作家の作品が独立しているとあまり一体感がないな、ということになりました。「壁を塗りたい!」と僕が言ったら、みんなも渋々「いいよ」と言ってくれました。その次の展示も同じ場所だったので、「これは一度塗っているから塗れるだろう」と思って塗りました。空間をつくりたいという気持ちが、元々自分にはあるのです。立体ひとつだと、どうも完結しない。それを完結させるための一つが写真なのです。そのあとは徐々に「写真で撮ればいいか」というような気持ちに変化していって。今回は《picnic with undead》で、小さな部屋のような状態がつくれました。ただ、本当にやってみたいのは何かと問われれば、家や部屋全部をつくりたいですね。あまり賛成してくれる人がいないのですが。(笑)

以前のカップルの写真作品では特に、部屋の中にカップルがいて、いろんなシーンを演じていたようなところがありましたよね。そこから演劇的な要素も感じられたのですが、最近ではモチーフが動かなくなってきたといいますか、具体的なシチュエーションや場面の再現がなくなって、銅像のような、静的なものとしての立体があるような気がします。今回は、写真も場面の中にいるものというのではなくて、違うつくり方ですね。個人的には、状況設定のようなものが小出さんにとっては必要でなくなってきていて、抽象的、普遍的な方向に歩まれているように感じます。

おそらくカップルのときは、カップルというものが存在するシチュエーション、つまりベッドルームやお風呂などにも重要性がありました。ですから写真作品では、様々なシーンに実際に立体を設置して撮影しました。それが『marriage』で結婚式となると、別の場所が必要になり、今度は式場で立体を撮りました。今回は一番のテーマが、引っ越して新しい家ができたということなので、写真作品も家で撮りました。いろんな作品に家が登場しているのは、新しい環境ができました、ということが今回自分のなかでは重要だったからなのです。

では子供ができて、新しい生活が始まるとなると、再び部屋のなかに戻られるということですか。

ネタバレしてしまいますね。(笑) 今後については、子供が生まれたならば、子供目線になるのかな、と。自分自身の自己主張は結婚という節目をもって満足した気がします。「俺は」から今後は「うちの家族は」となっていく。どんな夫婦でも、子供ができると子供中心の考え方になるじゃないですか。次はそういうふうになっているかもしれない。

gallery 2(2つ目の展示室)のインスタレーションはすごく面白いですよね。ペインティング、ドローイング、写真、立体は、小出さんの中でどういう関係なのでしょうか。

突きつめると全てがペインティングなのだろうな、という考えです。自分の中での納得度やつくりやすさという点でいうと、立体、ドローイング、ペインティングという順番ですね。ペインティングは最もハードルが高い、敷居が高いんです。

ドローイングは立体のスケッチ、あるいはアイディアのようなものとして描くのですよね。

立体をつくるとき、僕はほとんどスケッチをしません。発砲スチロールに直描きで、いきなり削りだして、削りながら形をつくっていく。どちらかというと立体を制作する方が気分もすっきりします。今回のペインティングは、そのほとんどが今までにつくった立体を絵にした作品なのですよ。立体をつくったものを絵にする方が描きやすかったです。立体を元にした絵でないものありますが、それらのペインティングには時間がかかっていますね。ドローイングに関しては、だいぶ気持ちも楽に描けるようになってきて、立体でつくっていないものも、たくさん描けるようになってきました。

これらの変型ドローイングは、なぜこのような形なのですか。

僕にはどうも四角アレルギーがあって。四角に描こうとすると緊張しちゃう。そこが絵画の難しさだと思います。すごく緊張してなかなか筆が進まなかったり、止まったりしてしまう。そういう状況を打破するために、画面を切ってしまうとだいぶ楽になる。最初は大きい紙で描いていても、ちょっとずつ切っていくと小さくなっていきます。ビャーッと色をつけたあとにある程度切って、切った切れ端で絵を描いたりもします。そうする方がまだ、すっと描けるのです。

installation view at Tomio Koyama Gallery, 2008installation view at Tomio Koyama Gallery, 2008

写真左から:
◇画面左下のペインティング "unknown (hippo)", 2008、acrylic, lacquer on wood panel / 53.0 x 65.0 cm ほか、ペインティング全16点

◇変型ドローイング 左から "マスカラ", 2007、acrylic on paper / 42.5 x 77.5 cm  右"in these days", 2007、acrylic on paper / 85.0 x 114.0 cm
installation view at Tomio Koyama Gallery, 2008  © Naoki Koide

完璧な四角の絵画平面ではなくて、なにか隙がある画面の方が描きやすいということですね。

知り合いの作家は「四角におさめるのが絵画の世界観」といいますが、自分の場合はすごく緊張してしまって。

では今回はチャレンジされたのですね。

今回描けたのは、今までにつくったことのある立体を元にしたペインティングだから。緊張感さえクリアできれば、絵も描けるのではないかと思います。いかに緊張感をださずに絵を描こうかというのが今後の研究テーマです。

今後、立体から生まれたモチーフだけではなく、ペインティングとして独立した作品も描いてみたいということでしょうか。

ゆくゆくは描きたいですが、仕事をする上で自分のスタンスってありますよね。例えばタバコを吸ってからでなければ描けないとか。そういうものは依然としてあって、自分にもちょっとしたシステムができつつあります。木彫でもいいし、とりあえずは立体をつくってから絵に入る。あとは気持ちの問題ですね。四角は難しいな、という感想です。

個人的に気になるのは、立体作品が今後更にどんどん大きくなっていくのだろうかということです。だんだん大きくなっている印象がありますので。

今回、大きい作品を制作するにあたって、どういう大変さがあるか、どういう見え方になるかがだいぶわかったので、ちょうどいい大きさを次回からは模索しようと思います。大きい作品を制作してみるまでは「大きいのをつくってみたい」という気分でしたが、制作してみた今となると「あ〜、大きすぎた!」という感想です。ただ、家のサイズぐらいまでは、例えば家のなかに部屋をのせるとかはやってみたいです。自分で構造をつくるのは今回で最後になるでしょう。今後は既存のものに手を加えていきたいです。

《new home》についてですが、作品のサイズは夫婦の力関係を表しているのでしょうか。

そう、まさに自分の印象を再現しています。男性はみんな「俺可愛い」「嫁でかい」という意識だと思いますよ。夫婦で来られた方はみんな「うちもだよ」と絶対言いますからね。共感を呼ぶのです。当初、奥さん像の唇は、以前のカップルと同じくらいの若干タラコ唇という程度だったのですが、「何かが違う…、何が違うんだろう?あ!唇だ!」と思ってデーンと量感をもたせたらしっくりきました。この唇が何を意味しているかはご想像にお任せします。うちの近所に山羊がいるので、この唇の上に山羊をのせようかとも考えていたんですよ。

installation view at Tomio Koyama Gallery, 2008installation view at Tomio Koyama Gallery, 2008

写真左から:
◇彫刻"new home"のディテール、正面と後部

◇ペインティング "papa", 2008、acrylic, lacquer on wood panel / 53.0 x 65.0 cm
© Naoki Koide

そしてこれが新居なのですね。

新居は至る所に登場します。この猫は「にゃんこ父さん」という野良猫で、庭にうんことおしっこをしていきます。これはおしっこをしている場面です。このヤモリはうちが引っ越して来たばかりのときすでに家のなかにいたもので「ヤモリのヤッチャン」といいます。ネットでコオロギを買い与え越冬し、去年の夏に脱皮して大きくなりました。そして、もうお前一人でなんとかなるだろう、と野に放しました。

installation view at Tomio Koyama Gallery, 2008

"pilot"ディテール(後部)
installation view at Tomio Koyama Gallery, 2008  © Naoki Koide

《pilot》のお尻に人の顔が描いてありますが、彼も身のまわりの方なのでしょうか。

これだけは違うんです。上のほうは描こうと思って描いたものです。後ろの顔は自画像っぽくつくってみました。

眼鏡をかけていますね。

横の絵はそういう類ではなく、落書きです。今までとは違う描き方をしています。目もあるし、顔もあるし、下には黒い犬たちがずっと遠くへ…。これは三途の川をイメージしました。地獄の番犬とか。悪魔の遣いのような。世の中、悪いことや不幸なことだらけじゃないか。そういう世の中を光で照らしながら「はいこっちよー」と《pilot》が導いている。後ろにはカップルもいて、道案内してもらっている、という情景です。下の方が怖い感じですね。

そういう設定は制作されているうちに決めていかれるのですか。

はい。最初は雲の明るいイメージで、水色で塗っていたのです。《picnic with undead》と同時に塗っていたのですが、あちらを塗っているうちに、だんだん心のうちが暗くなっていてそれが出てきてしまいました。

ダークサイドが噴出してきたのには結婚と関係があるのでしょうか。

結婚自体からダークサイドはでてきませんでした。むしろ、世の中の人間みんな早く結婚すればいいのに、と思います。僕、結婚推進委員会なんです。特に男坊主は結婚したほうがいいと思いますよ。結婚すると男が今まで持ちえなかった感覚を持たざるをえなくなる。結婚は男にとって、非常に成長させられる機会になると思いますよ。女性にとってはわかりませんが…。自分にとって結婚は大正解でした。今までは1人の下宿だったので、自分の好きなようにできる場所でした。ところが引っ越して、借金しなければ、手続きや値下げ交渉をしなければ、家の修繕もしなければ、ご近所付き合いもしなければ(自治会の役員ですからね)…と、社会的なこと、「人間社会って難しい」ということ経験して、世の中は自分の思った通りにいかないことの方が多いと感じました。それが今、噴出しています。ゆえに土地、家といった身の周りのことが今回は多いのです。

生活する、ということですね。

だからこそ『In These Days』 なのです。立体の元々のアイディアではそこまで深く考えていませんでしたが、つくっているうちに掘り下げられていきました。今回は引っ越してから初の作品で、新しい場所でつくったので特にそう感じました。大変だったんですよ。「あそこを直さなきゃいけない」「お金が足りない」「制作場所の壁はぼろぼろ」「どうしやいいんだ」と。現実的な問題がたくさんあったんです。よく、引っ越しをしたり、家を建てた人は気をつけろといいますよね。引っ越したときに家長が病気になったり怪我をしたり、下手したら死んじゃったりする、とよく父が言っていました。確かにわかります。大きな家や引越は相当ストレスがかかる。事故をおこしたり、不注意になったり、身体を壊したりするなぁ、と。

アーティストのなかにはそういった物事を避けて通る方もいますが。

それは結婚をすればわかります。避けて通れないところもあるんだなぁ、というところを結婚でよく勉強させていただきました。だいぶ前向きになりました。

今回オープニングで行った厄祭について説明してください。

愛知県のあたりでは非常に重要なお祭りです。ひとりの厄年の人の厄を、まわり近所の人でちょっとずつもってあげよう。厄年は避けて通れないので、体調不良や怪我、事故はするかもしれないけれど、死ぬ程でなければいいではないか、みんなで厄を軽くしてあげよう、という考え方なんです。厄年の人が自分のお金をはたいて施しをします。お餅をついたり、お菓子を配ったり。ちょっとずつ厄をもってください、お願いしますよ、その代わりあなたのところに来年厄年の人がいればもらってあげますよ、と。Give and Takeの関係なんですね。それぞれ助け合っていけば、みんなが浮かぶじゃないかという農耕民族らしい考え方なんです。一人勝ちは許さないけど、みんなで上がればいいじゃないか。だってひとりじゃ田んぼは耕せないでしょう。

結構シビアな世界なのですね。

あなたの家の田んぼ、ひとりでやっちゃ終わらないけど、みんなでやれば刈入れ間に合うよ、と。

人はひとりでは生きられない、ということですね。

そういうことです。これは昔の農業の基本です。現在は機械化されていますからひとりでできたりもするけれど、昔、田んぼというのは親戚や隣近所で一気にやって、順番に手伝うものでした。そうやって助け合えば、村全体が浮くでしょう。まさに村社会です。お国に仕える役人や一人勝ちの商人には当てはまらない考え方です。農業は一人勝ちではなかなかできない。

作家は士農工商に属さないところの職業ですが、農のポイントが入っているのがおもしろいですね。

三つ子の魂百までというように、生まれた土地や家が自分の基本になっていますから。

やはり身近な文脈が必要だということですね。

もし僕がニューヨークのマンハッタンに生まれていたらどうなっていたかわからないですね。(笑)

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